JOURNAL

株式会社ドール シニアマネージャー ブランドバリュークリエーション担当 成瀬晶子さん/規格外商品の価値を追求し、アップサイクルで産地も環境も守る

2022年6月にフランスで開催されたカンヌライオンズ2022で、ビジネス・トランスフォーメーション部門グランプリなどを受賞するなど注目を集めているのが、動物由来の革製品を減らすことを目的にした代替レザー製品「ピニャテックス」。このピニャテックスに原料となるパイナップルの葉を提供しているのがドールです。こうした取り組みに至るまでの道のりについてドール社の成瀬晶子さんに話しを伺いました。

代替レザーにパイナップルの非可食部を活用

―サステナブルなレザーとして注目を集めているヴィーガンレザー「ピニャテックス」にドール社が関わりをもつようになったのにはどんな背景があるのでしょうか。

弊社ではフルーツの廃棄ゼロに向けた取り組みとして、『もったいないフルーツ』プロジェクトを2021年9月から開始しました。その一環として、取り組んだのがパイナップルの葉のアップサイクルです。実は、フィリピンで毎年250万トン以上のパイナップルが生産されるなか、出荷量1トンにつき、その3倍である3トンの葉が廃棄されていました。大量の葉は放置され腐敗していくとメタンガスが発生し地球環境に害を及ぼすことになります。この問題を解決するためにピニャテックスという繊維を開発したAnanas Anam(アナナス・アナム)社とパートナーシップを結び、パイナップルの葉を提供することになりました。

―ピニャテックスを使ったコレクションが「BASE MARK」から発表になり、国内でも認知度が高まりつつあります。

フルーツの非可食部のアップサイクル事例となるピニャテックスを日本国内でPRしたいと考えていたときに、日本発のブランドであるBASE MARKとつながることができました。デザイナーの金木志穂さん自身、サステナブルな取り組みに前向きで目指す方向性が合致したことがいちばんの要因です。ピニャテックスの素材はレザーのようなハリ感がありつつ、天然素材特有の柔らかさやぬくもり感も同時に感じられることが魅力。金木さんの感性によって、繊維が豊富なパイナップルの葉を使った生地の特性を生かしながら、洋服の部分使いやバッグ、小物類などに落とし込んでくださいました。

―23FWコレクションでは5ルック発表されました。

パンツ、シャツでは、綺麗な色出しができるピニャテックスの特徴を生かして、アクセント的に部分的に貼り付けてデザインされました。ダッフルコートでは前身頃の全面にピニャテックスを採用。ハリ感とボリューム感の絶妙なバランスを楽しむことができます。そのほか、Gジャンやスウェットのセットアップ、トートバッグにもピニャテックスが取り入れられ、モードかつサステナブルな新提案がなされました。予想以上に反響も大きく、今後に期待を持つことができました。

―BASE MARK以外にコラボレーションを行っているブランドはあるのでしょうか。

海外ではNikeやHUGO BOSS、CHANELといった海外ブランドがピニャテックスを自社プロジェクトに活用し、その数は世界80カ国200以上にものぼります。国内ブランドでは今回がはじめて。これを機に、さらに認知を広めていければと思っています。

三方よしの精神がSDGsの取り組みに直結

―ドール社ではSDGsへの取り組みをより多くの方に発信するイベントも積極的に行われています。

フルーツはおいしいだけでなく、人々の様々な暮らしを笑顔にするもの。そうした考えをもとに、弊社では今夏より「フルーツでスマイルを。」というメッセージを掲げ、さまざまなプロジェクトを行なっています。そのなかのひとつが、食べて・遊んで・学べる体験型イベント「Doleフルーツスマイルパーク」「Doleフルーツスマイルスタンド」です。Doleフルーツスマイルパークでは、パイナップルの葉を活用したピニャテックスを使った洋服を試着して頂くことができます。独特のその肌触りを楽しんでもらうとともに、フルーツの非可食部をアップサイクルすることで農家の副収入となり、現地の人々の暮らしを支えられるといったこともお伝えしています。

―アップサイクルに向けた取り組みとして他に行われていることがあれば教えてください。

同じパイナップルでいえば、実の上部のクラウンと呼ばれる冠芽(かんが)を出荷する段階でカットし、量り売りすることも今年から積極的に行っています。これまで、ご家庭で処分されていた冠芽は生産地で土に植えられ、新たな株として実を成らすことに。これなら家庭での食品ロスもなくし、非可食部のアップサイクルにもなります。

―パイナップルひとつでもさまざまなアップサイクルの方法があるのですね。他のフルーツではどんな取り組みをされているのでしょうか。

今年の8月末からは、産地で廃棄されてしまう規格外バナナを商品化した「Doleグリーンバナナ」を展開する予定です。傷などが原因で規格外となり、そのまま廃棄されるバナナの量は年間でおよそ2万トン。ドールでは、こうした規格外のバナナを「もったいないバナナ」と名付け、救出する試みを行なっています。
通常、バナナを輸入する際、検疫の関係で熟成加工しない未熟状態の緑色の状態で出荷されます。熟成加工されずに廃棄処分になってしまう規格外のバナナを救う手段として試みたのが、果物として食べるだけではなく、野菜のように食べる方法です。

―実際に、試食させていただいのですが、バナナとは思えないホクホクとした食感! まるでジャガイモを食べているようです。

そうなんです。ジャガイモのような食感を味わえるんです。カレーやお味噌汁に入れてもいいですし、フライにして塩を振りかけても美味しいですよ。しかもレンジでチンするだけで、手で簡単に皮を剥けるので、調理も簡単。野菜として料理に幅広く活用していただけます。

―果物としては価値を失ってしまったバナナを野菜のように調理できる食材として扱う。思いも寄らない発想に驚きます。

新しいことを発想・チャレンジし、新しい価値観を創造していくのがドールというブランドなんです。そもそも、日本では規格外の商品に対して、「安かろう悪かろう」「B級品」みたいなネガティブなイメージが強いですよね。でも、規格外の商品だってコストをかけて大切に作られたもの。それなのに、見た目が悪いというだけで避けられ、売ったとしても買い叩かれてしまう。食べれば美味しいし、大切な資源でもある規格外の商品の価値をあらゆる角度から見直してピーアールしようというのがドールのもったいないプロジェクトです。
グリーンバナナの試み以外にも、ドールでは、バナナ量り売りやプラスチックを使用しない包装で販売する取り組みなども実施しています。

―考えてみれば当たり前のことなのですが、そのことを「もったいない」という分かりやすい言葉と、誰が聞いても納得するエピソードを添えて展開している点が貴社の特徴ですよね。アクションの裏側にあるエピソードをしっかりと伝えてブランディングしていく手法はファッションにも通じるところがありそうです。

ファッション業界では、セールを行わないブランドが増えていると聞きます。手間もコストもかけて作られた洋服なのに、シーズンが過ぎたから安くなるというのも考えてみればおかしな話ですよね。
商売において「お客さまは神様」という言葉を聞くこともありますが、私たちのポリシーは「買い手よし、売り手よし、世間よし」の「三方よし」。お客さまだけではなく、生産者の手間も報われるような仕組みをあらためて見直していく必要性を感じます。いずれも生活に欠かせない食品と衣類にはそうした面での共通点はありますよね。

―三方よしの精神やもったいないの思考を当たり前のこととして変えていくことがSDGsのアプローチにもつながりそうです。

ドールでは「Sunshine For All」をスローガンとして掲げています。年齢、収入、住んでいる場所、人種、性別を問わず、フルーツを通して、すべての人が太陽の光のように平等に栄養を摂取できるような環境をつくるというのがその思いです。170年近く前から脈々と受け継がれているこの考えは、まさに、SDGsの目標にも通じるところがあります。
以前からドールでは、子ども食堂にバナナを届けたり、幼稚園で食育キャラバンを行なってきましたが、これまではなかなか響かなかったというのが正直なところ。最近になり、SDGsの考えが浸透してきたことでようやく消費者の意識にも変化が見られるようになりました。時代が追い付いてきたというのでしょうか。だからこそ、今、お客様が求めているものをドールとしてしっかりとアピールする段階に来た印象です。

―本記事の読者は、企業におけるSDGsプロジェクトに関心を持たせている方が多いです。成瀬さんご自身が企業のプロジェクト担当として心掛けていることをぜひお聞かせください。

SDGsの取り組みって、実はどれも当たり前のこと。目先の便利さや損得に目が行きがちな消費者に、考えるきっかけを与えるのが企業の使命だと思いますし、それをやれていること自体が私のやりがいになっています。ドールの商品を買うと、産地の暮らしが豊かになり、環境汚染が軽減される。そうしたよいシナジー、よいループを作り出す一員として自分がいる。その意識を持つことが業界問わず、こうしたプロジェクトに携わる一人ひとりに必要なことなのではないでしょうか。

2009年伊藤忠商事株式会社入社。入社以来、食品ビジネスに携わり、飲料の企画開発や新規事業開拓等を担当。社内ビジネスコンテストをきっかけに、果物や野菜の生産・販売を手掛けるDole社のブランディングに携わる。2021年より株式会社ドールへ出向。2021年「もったいないフルーツ」プロジェクトを立ち上げ。2023年より社長付ブランドバリュークリエーション担当としてリブランディングプロジェクトを担当。

明るい世界のために、 ドールが守る約束