2021.03.01
インタビュー

エシカルファッションプランナー鎌田安里紗さんインタビュー(前編)/悪者もいなければ、正解もない。自分の行動を見直し続けることが大切

SDGsについて、ファッションに関わる企業や人はどう取り組むべきなのか。どんな意識を持ち、どう行動することが地球の未来、ファッション産業の未来を切り開いていくことができるのか。
そのヒントを探るべく、さまざまなジャンルで活躍する方にインタビュー。

初回を飾るのは、モデルやエシカルファッションプランナーとして幅広く活動を続けている鎌田安里紗さん。前編では、アパレル販売を通して感じた違和感から具体的なアクションに変えていった過程について話しを伺いました。

ギャル雑誌のモデルがエシカルに目覚めた理由とは?

―高校在学中から渋谷109のショップでアルバイトをし、ギャルモデルとしても活躍していた鎌田さん。まるでイメージの違うエシカルファッションに興味を持った背景にはどんなことがあったのでしょうか。

高校1年生の頃に“マルキュー”で販売員のアルバイトと、ギャルファッション誌のモデルとして活動を始め、服に囲まれて仕事をする毎日を楽しんでいました。けれど、ある日ふと疑問が沸いてきたんです。「自分が気に入ってオススメしているこの洋服、いったいどこから来たものなんだろう…」。洋服の企画に関わったときには、デザインや生地の提案をすると、1週間後にはそれが洋服になって、ポーンと目の前に現れる。しばらくすると、それが大量の商品としてお店に届き、店頭で売られる。いったい、どこで、誰が、この服を作っているのか。もちろんどこかの工場で生産されているという事は情報としては分かっていますが、具体的な人や様子はほとんど見えてこないんですよね。 “知らないのに売っている”という行為に自分自身、違和感を覚え始めたのです。

―“好き”を仕事にしながらも芽生えたモヤモヤを解消するために、どのような行動を?

その頃、チョコレートの原料でもあるカカオのフェアトレードの話しを耳にし、興味を持っていたんです。自分たちが日常的に食べているチョコレートの生産過程で、児童労働などアンフェアな取り引きがなされていることがある。もしかしたら、洋服にも同じような問題があるのかもしれないと。洋服のフェアトレードに関する情報を調べるなかで、辿り着いたのがフェアトレードブランドとして知られる「ピープルツリー」です。
「ピープルツリー」のお店に足を運んでみて、驚いたのはお店のスタッフの方が、各製品の生産者や、その人たちが持つ技術について丁寧に語ってくれること。使われているコットンはこうして生産され、オーガニックにはこんな意味があって、こんな環境で作られている…など、洋服のストーリーを説明してくれるんです。ファッションの原点はモノ作り。それに気づいたことが私にとってのエシカルファッションとの出会いでした。

―一方、世間では2013年4月にバングラデシュの商業施設で起きた「ラナ・プラザの事故」で、ファッション業界の過酷な現状が明るみに。

あまりに衝撃的なこの事故は、ファッション産業の構造上の問題が社会的に共有された出来事でもありました。ファッションは人に楽しみを与えてくれるものですが、それを作っている人から楽しみどころか命を奪うものになってしまうこともある。その現実が業界内外にもたらしたショックは相当でした。そうした中、事故の翌年に、ラナ・プラザの事故で負傷した女性から直接話しを聞く機会がありました。「ラナ・プラザでの仕事は、ひたすら同じパーツを縫う毎日で、自分が何を作っているのか、それがどのようなものになってどこでどんな人たちに着られるものなのかも知らなかった」。そう語る彼女は事故後、バングラデシュ国内のフェアトレード認定を受けた工房で働いていました。新しい職場では、工房全体でコミュニケーションをとりながら、服全体を組み立てられるように技術を習得できる。また自分が作った服が国外で着用され、撮影されたカタログ等が届くことが励みになると聞きました。「働くってこういうことなんだ!」と話す彼女の目の輝きが印象的でした。

―エシカルファッションプランナーとして本格的に活動をはじめたのはその頃でしょうか。

はい。2015年にファッション誌が相次ぎ休刊になり、専属モデルとしての活動もいったんお休み。そこで、ブログやtwitterなど個人のメディアを活用して労働環境や環境汚染、動物福祉的な問題など、フェアトレードやエシカルに関する情報をそれまで以上に積極的に発信しはじめました。

―周りの反応はいかがでしたか?

ファストファッションやプチプラファッションが盛り上がっているタイミングでもありましたから、時代とは逆行しているのかもとも思いましたが、意外にも反響があって。「自分もフェアトレードやエシカルファッションについて知りたかったんです!」といったコメントに励まされると同時に、関心の高さを実感しました。

起こった問題を自分事とし、みんなで引き受ける

―オンラインコミュニティ「Little Life Lab」を立ち上げるなどし、共感の輪をどんどん輪を広げていらっしゃいます。

ひとりの人間が持てる興味や疑問、気づきってどうしても偏ってしまいますよね。だとしたら、何人かで集まって話せば、視野が広まるし、問題に対する取りこぼしも減るのではと考えたのが発端です。メンバーそれぞれが暮らしの中で出会う疑問や興味を入り口に、さまざまな企画を展開しています。他に、参加者にコットンの種を配って、自宅で綿花を育ててもらう「服のたね」というプロジェクトも行っています。これは最終的に、収穫した綿を集めて紡績工場で糸を紡ぎ、生地を作るところまで行うのですが、中には芽が出なかったり、虫がついて途中でダメになってしまうコットンも。思うようにコントロールできない植物を扱う経験から、農作物と向き合っている生産者の苦労や苦悩を知るきっかけにもなります。

―洋服の原料となる植物を育てることの難しさを体験することで、業界の見え方も変わりそうです。

私自身、環境汚染や生産背景などファッション業界をとりまく問題が気になりはじめた頃は「どこかに黒幕がいて、その人たちを説得したら状況はよくなる」と、真剣に思っていたんです。それこそ、ファストファッションは敵だみたいな。でも、決してそうではないですよね。ファストファッションのおかげで階級や年収、年齢に関係なく、多くの人がファッションを楽しめるようになったり。どんなことにも良い面・悪い面があります。販売スタッフだってみんな真剣に目の前の仕事をまっとうしている。世の中を悪くしようと思って仕事をしている人なんていないはずです。でも、結果として大量の余剰在庫が生まれたり、環境への負荷が大きくなりすぎたり、社会的経済的立場の弱い人を追い詰めていたら「しょうがないよね」とは言ってられない。悪気がないからよしにはならないし、まして、それを誰かのせいにしたり、見て見ぬふりをしていてはいけないよなぁと。起こった問題をみんなで引き受けて、自分のなかにも問題を生む要素があると認識する。それを現実的なアクションにつなげていくことがつまり、SDGsなのではないでしょうか。

自分のなかの良心や違和感に目を向けて

―ご自身は”エシカル”や”サステナブル””SDGs”といったキーワードをどう捉えていますか?

自分の生活や仕事の仕方を見直すきっかけになるものだと思っています。決して、「こうすれば“エシカル”あるいは“サステナブル”」という絶対的な答えがあるものでもないし、SDGsも「これをすればOK」という免罪符でもない。SDGsであれば、まずは17個の項目を見て、世界にはこんな課題があるんだと知ることができる。そこから、自分の生活や仕事と照らし合わせて、「もしかしたらこれらの問題と繋がっているかもしれない」と気づいたり、「もっとこうすればよいかもしれない」とアイデアが浮かぶかもしれません。確約された正しさを探すのではなく、自分が違和感を覚える出来事や感覚を起点にするのもポイントだと思います。だって、“正しさ”も“社会の常識”も日々どんどん更新されていくわけですし、「これをクリアしたらこの先、絶対に大丈夫です!」と、太鼓判を押されるものは何もないはず。だからこそ、自分たちがやっていることが結果的に負の影響を生み出していないかを見直し続けることが大切なのではないでしょうか。私自身も何か発信することや、新しい企画を実施する中で、常に本当にこれで良いのだろうかというためらいがあります。

―鎌田さんが皆さんにおすすめする「エシカルなファッションの楽しみ方」をぜひ、教えてください。

「自分の選択に誇りを持てるか」というところを丁寧に考えてみるのもひとつだと思います。「デザインがとってもいい」「生産背景に共感できる」など、判断基準は人それぞれ、そのときどきで変わりうるものですし、常に完璧な判断ができるわけではありませんが、自分が何をもとに選んでいるかには自覚的でありたいなと思います。自分で納得して買ったものを大切に着る。素朴な提案に思えるかもしれませんが、重要なことだと思います。とはいえ、着ているうちに飽きるなど、いつか自分にとって不必要になるときがくるもの。そのときに、その服を必要としてくれる人に綺麗な状態で渡すことができるよう、日々ケアをしておくといったことも実は大切なアクションだと思います。新しい服を買うことももちろん楽しめば良い。ファッション産業はサプライチェーンの複雑さが課題を生んでもいますが、一着の服ができるまでにたくさんの人が関わっていることはとても魅力的なことであると思っています。自分なりの判断基準で服を購入する。着ること、コーディネートすることを楽しむ。手にした洋服のセカンドライフも想定しながら大切に扱う。そうしたことがエシカルなファッションの楽しみ方になると思います。

(プロフィール)
1992年、徳島県生まれ。高校進学と同時に単身上京。在学中にギャル雑誌『Ranzuki』でモデルデビュー。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程在籍。同大学総合政策学部で非常勤講師を務める一方で、エシカルファッションプランナーとして活動。オンラインコミュニティ「Little Life Lab」を立ち上げる他、2020年2月からは一般社団法人「unisteps」の共同代表理事を務める。

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