2022.09.29
インタビュー

SIRI SIRI代表・デザイナー 岡本菜穂さんインタビュー/伝統技術と美意識が宿る工芸は日本発信のサステナビリティ

ガラスや籐など、自然由来の素材と伝統的な職人技術とを融合させた、コンテンポラリーな作品を発信する「SIRI SIRI」。サステナブルな未来を築くために、デザイナーの岡本菜穂さんはどんなアクションを実践しているのでしょうか。ブランド設立から16年経った今、創設時から変わらずにこだわっていることや進化を遂げていることなど、SIRI SIRIのこれまでと今後についての話しを伺いました。

職人による伝統工芸をジュエリーにも

―ご自身がファッションやデザインに興味を持ち始めたのはいつ頃なのでしょうか。

 子どもの頃から絵を描いたり、工作をしたりするなど、モノを作ったり、表現することが大好き。飛行機のエンジニアをしていてたこともある建築家の父と一緒に、小学校の低学年の頃から一緒にはんだごてを使って電子基盤や飛行機の模型を作ったりもしていました。
 ファッションに興味を持ちはじめたのは小学校の高学年の頃。実は私、小学6年生のときにすでに身長が170㎝あったんです。当然、サイズの合う服がない。そこで、姉が「これだったら入るのでは?」と与えてくれたのが海外の古着。なかには70年代頃のイヴ・サンローランの服もありました。私が魅了されたのは、そうしたハイブランドの服のテキスタイル。ずっしりとした生地の質感やその織のデザイン、美しい色合いなど、見ているだけで心が躍りました。今思えば、古着とはいえ贅沢な話。でも、子どもの頃から本物に触れられたことは感謝でしかありません。

―学校を卒業後は、インテリアや空間デザインに携わる仕事に就かれていたそうですが、何がきっかけでジュエリーのデザインをされるようになったのでしょうか。

 昔からアンティークジュエリーが好きだったのですが、自分が金属アレルギーであることがわかって…。金属製のジュエリーはもちろん、時計もダメ。それなら、身につけられるジュエリーを自分で作ろうと思ったのが最初でした。自分のために作った、切子のバングルやピアス、籐のバングルといった初期の作品は、今もSIRI SIRIのシグネチャーアイテムになっています。

―SIRI SIRIの作品は、職人による日本の工芸技術が取り入れられているのが特徴です。ご自身のデザインに工芸を融合させたその意図とは?

 インテリアの仕事をするなかで、家も家具も、伝統的な技術や美意識によって支えられていることを実感してきました。「長く大切に使い続けられるものを」という“ものづくり”の視点に立った価値観。それが自分の根底にあるんです。さらに、昔、テレビで見た日本の伝統工芸の継承者が年々減り、多くの伝統技術は消えつつあるという現実。それらがあいまって、手間暇かけて生み出す伝統技術を自分の作品にも宿したいと考えるようになったのです。
 もともと、ガラスの表面にカットを施したいと考えていて、それを実現できる工房を探すなかで行きついたのが江戸切子の工房。ネットで見つけた切子の制作会社にアポイントを取り、手書きのデザイン画とサンプルの模型を持って、葛飾区にある工房にお邪魔をしました。ちょうど同じ年齢の女性の職人さんがいらっしゃり、制作に力を貸してくださることになったのです。カットから磨きを含めて現場で細かく打ち合わせと試作を重ね、完成したのが水面のような細工になるように槌目を施した「KIRIKO Bangle」です。

―職人が手掛ける伝統技術を取り入れることは、大量生産やファストなプロセスを経ないということになります。結果的に、サステナブルな作品が誕生したということですね。

 たしかに、そうですね。SIRI SIRIの製品のほとんどが、ガラス工芸や切子、籐編、螺鈿など国内のあらゆる伝統技術を持った職人さんの手で一点一点、仕上げられています。技術とともに受け継がれてきた日本ならではの美意識が宿る工芸は、流行や季節にとらわれず、普遍的で心に響く魅力があります。
 ふつう、ガラスや籐って夏のイメージがあるのですが、「SIRI SIRI」の作品はシーズンレスで使えると言って頂ける。それこそが、風土と技術があいまった日本ならではの、サステナブルなものづくりにつながっているのだと思います。

アクションは、積極的に見せて伝える

―岡本さんは現在、スイスを拠点に活動されています。ヨーロッパへの移住がご自身やブランドにどのような影響を与えているのでしょうか。

 語学の勉強も兼ねて留学を決めたのは、ブランドを立ち上げてから10年近く経った34歳のとき。その頃、自分のなかで初期のような自由に探究し、自由な発想を生み出すピュアなものが失われているかもと感じることがあって。経済のためにと抑えられつつある感性を取り戻したくて、ヨーロッパへと向かいました。
 スイスの大学院に入学する前に、イギリスのオックスフォードで語学を学んでいたのですが、そのときによく足を運んだのが現地の博物館。自分の想像力の起源を探すかのように、古代の遺物に見入っていました。当時の経験から生まれたのが2019年のコレクション「EXCAVATION – 発掘 –」です。古代の装身具にインスピレーションを受けたネックレスやバングルはブランド初となるジェンダーフリーなデザインとなりました。
 スイスで暮らすようになってからは、街を流れる川や広々とした空、建物の白い壁など、日常の景色が発想の源に。自然に身を委ねながら、感じ取った色彩をシンプルな造形としてデザインに落とし込むことが増えました。トレンドを意識するよりも今、自分が何を感じているかを自由に発想できている感覚があります。作品サンプルなどの輸送は、EMSを使えば日本とスイス間は4日くらいでできてしまう。本当に便利な世の中です。

―ヨーロッパ諸国は環境への意識が高く、取り組みも進んでいる言われています。日本との違いをどんなところに感じますか?

 スイスでは野菜は量り売りが基本で、ビニール袋をあまり使いません。飛行機に乗るのも避けるなど、環境への配慮が暮らしに浸透しているのを実感します。そういうと、日本が遅れているように思われがちですが、逆にスイスでは日本のものづくりがフィーチャーされているんですよ。
 例えば、自然の素材にこだわったり、サイズレスなデザインを展開しているブランドは日本語を想起させる名前を付けているところが少なくありません。着物や和食、シンプルでミニマルなライフスタイルなど、日本の衣食住がサステナブルなものとして再認識されているのを感じます。

―日本がフィーチャーされているというのは嬉しいです。その一方で、SDGsが掲げる目標に、どう取り組んでよいか思いあぐねている日本のアパレル企業も多いようです。岡本さんからアドバイス頂けることがあれば、ぜひ。

 日本では、人も企業も周りの様子を伺ってから行動するパターンが多いですよね。そこを「思ったときに、まずは行動してみる」に変え、個々の判断で動くことを意識してみてはいかがでしょうか。そして、大切なのは自分たちの思いやアクションを伝えること。SIRI SIRIでは、オウンドメディアを充実させて、作り手のインタビュー企画を設けたり、「職人会」を催して、職人同士の横のつながりを生むなどしています。商品を作って売るだけではなく、見る、聴く、読む、など、あらゆる角度から自分たちの思いと作品を知ってもらう工夫をしています。自分たちなりの取り組みは、積極的に見せて伝える。それが重要なのではないでしょうか。

―今後、SIRI SIRIとして取り組んでいきたいことを教えてください。

 今、スイスのプロジェクトで、現地の職人と一緒に、リサイクルガラスを使った照明を作っているんです。そうしたサステナブルな素材を活かしたインテリアアイテムを日本でも展開してみたいですね。インテリアの地産地消といえばよいでしょうか。経済のためだけにモノを作るのではなく、ピュアな感性と受け継がれた技術を用いて、長く大切に使えるモノを生み出す。16年前にSIRI SIRIを誕生させたときの思いをこれからも私自身、大切に受け継ぎ、さまざまな作品で表現し続けていきたいです。

(プロフィール)
桑沢デザイン研究所スペースデザイン科を卒業後、インテリア関連の仕事に従事。2006年、ガラスや籐など、身のまわりにある素材を使ったジュエリーブランド 「SIRI SIRI」 を設立。現在はスイスを拠点に活動を行う。2015年第23回桑沢賞を受賞するほか、 2020年THE LUXURY INNOVATION AWARD(スイス)にてファイナリストに選出されるなど、国内外で評価されている。

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